宮下奈都 no.200        

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【書評】宮下奈都「羊と鋼の森」

◇彼はピアノも弾けないごく普通の若者だった。
羊と鋼の森羊と鋼の森
宮下 奈都

文藝春秋 2015-09-11
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 本屋大賞受賞作。豊かでなだらかな丘がずっと続く、そんなイメージ
の物語だ。自分の無知を恥じるのだが、ピアノの調律や調律師に対して
大きな誤解があった。それはいわゆる「チューニング」なのだと思って
いた。その作業がかなり面倒なので調律師というプロがいるのだと。し
かし、違った。この物語を読めばそうではないことがよく分かる。弾く
人の経験や技量によって音を変えることも必要だし、弾く場所でもそれ
は変わってくる。もっと言うならば、調律師がピアニストを育てる、と
いうこともあるのだ。ううむ。

 主人公の外村は自然豊かな北海道で育った。素直でヘンなこだわりの
ない普通の人間。そんな彼が高校時代に出会った板鳥という人の仕事を
眼前で見て調律師になろうと決心する。そこから物語が始まる。

 調律師の学校を出た外村は板鳥のいる店に就職する。個性豊かで調律
にも一家言ある秋野、柳などの先輩たち。それに対して外村はピアノも
弾けず、迷ってばかりで技術的にも精神的にも進歩が遅い。そんな一人
の青年が悩みながらも一歩一歩前進していく姿を描いたのがこの「羊と
鋼の森」という物語だ。

 大きな出会いがある。和音(かずね)と由仁(ゆに)という双子の姉
妹。2人のピアノを聴いたことで外村の調律師としての人生は本当の意
味でスタートし、さらに彼女たちに起こったある出来事をきっかけに成
長していく。特別な存在ではない外村のような男が一生の仕事として調
律師を選び、その価値を見い出す。その姿に共感する人も多いだろう。

 先輩たちの造形、そして、ピアノの音の表現や抑制のきいた全体のト
ーンが素晴らしく、この物語を支えている。宮下奈都の物語をもっとも
っと読みたくなった。(No.358)

            ◯ ◯

2016.5.11 かなりの強風。この頃の東京、なんだか風が強い日が多い。
読書は吉田修一「橋を渡る」があと少しで終わる。

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