こうの史代 no.58        

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市民の側から戦争を描いた大傑作「この世界の片隅に」。

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 これはまぎれもない傑作!「夕凪の町 桜の国」と並ぶこうの史代の
代表作だろう。彼女の作品を比類なきものにしているのは、キャラクタ
ー設定の見事さと常にユーモアを忘れない表現にある。この2つがあれ
ばこそ、戦争、そして、原爆の悲劇を描きながらも暗いだけの物語にな
ってはいない。それが読む者にとって大きな救いなのだ。

 「この世界の片隅に」の主人公は北條すず。何を考えているのかよく
わからない、ちょっとドジなところもある少女だ。のんびりとした性格
のこの18歳の女性が広島から呉へと嫁ぐ。時は昭和18年から19年へ、
もちろん戦時下の暮らしだ。しかし、後半になるまで戦況自体が描かれ
ることはない。ここで描かれるのは、すずと北條家、そして実家の人々
の「銃後の暮らし」である。すずと夫である周作との初々しい愛、ちょ
っといじわるな義姉との心のつながり、娼婦であるリンとの友情などな
ど、人と人が生きている確かな暮らしがそこにはある。こうの史代の表
現は、いつも通り多彩だ。ある回では「愛國いろはかるた」なるものを
再現したり、「とんとんとんからりと隣組」の歌に合わせたほとんどセ
リフなしの回があったり、当時の献立をくわしく描いたり。何度もくり
返し見たくなるページが多い。

 物語は敗戦に向かい突き進んでいく。呉という町は、帝国海軍の拠点、
広島の軍都だ。空襲は日に日に激しくなり、そんな中ですず自身にも悲
劇が起こる。そして、広島の町にはついに…。この後半にいたってもこ
うの史代の表現にはブレがない。原爆の描写も過剰にはならないし、ユ
ーモアも忘れない。「人間」を見る作者の目はあくまで優しい。敗戦後
を描いたエピローグ的な5話が素晴らしい。すずをはじめとする人々の
健気さ、強さが心を打つ。そして…、カラーで描かれた呉の町の美しい
こと!市民の側から戦争を描いてこれは本当に見事な物語である。
(No.170)

               ◯ ◯

2011.8.26 東京は午後から雷雨。明日まで降り続くようだ。政局も荒
れ模様でどうなることやら、という感じだが。いくら待っても晴れ間な
どあらわれそうもないのが悲しい。

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強い思いと確かな才能が生み出した傑作「夕凪の街 桜の国」。

2つの物語を通して描く、広島とそこに生きる人々のそれから。

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 ヒロシマ、そして原爆をテーマにしたことで話題を集め、多くの賞を
受賞したこうの史代のコミック「夕凪の街 桜の国」。この作品は、原
爆投下から10年後の広島を舞台に皆実という女性を描いた「夕凪の街」
と現代と過去を行き来しながら彼女とつながりのある人々を描く「桜の
国」、2つの物語からできている。「あの事」を「いまだにわけがわか
らない」と思っている10年後の広島の人たち、しあわせだと思うたび、
「おまえの住む世界はここではないと誰かの声がする」と感じる皆実。
そして、彼女の次の世代にまで影響を及ぼす原爆の影。そんな苦しみの
中、なんとか生き抜こうとする主人公たちの健気さ、たくましさが心を
打つ。

 あの日のヒロシマから、今、現在まで、綿々とつらなっている思い、
その思いは当事者でない、あるいは当事者ではないと思っている多くの
日本人にも共有されているのか?という疑問が作者にはあったのだと思
う。それをより普遍的なものにしたい、という強い気持ちも。だからこ
そこうの史代はこの作品を作れたのだ。2編をつないでゆく構成の巧み
さ、個性的なキャラクター、ユーモアを忘れないストーリーなど彼女の
漫画家としての力量がその思いを支えている。実は、絵のタッチは最初、
自分の好みではないと思っていた。しかし、何度も読み直していくうち
に、この絵があってこそのこの物語だ、と思い直した。欧米やアジアで
翻訳出版され、映画化もされた傑作コミック。まだの人はぜひ一読を!!

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