■か行の作家 no.70        

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【書評】窪美澄「アカガミ」

◇現代の若者に対する危機感と国が家族のカタチを決める怖さ。


 舞台は2030年の日本。「異性の体を直に見たいとは思わない、触れ
てみようとは思わない」、そんな若者たちばかりになってしまったこの
国。彼らは性だけではなく生にさえ興味を失い、自殺者ばかりが増えて
いる。この設定に僕がリアルを感じるのは、「アカガミ」を読む前にテ
レビでまさに「そういう若者」を見てしまったからだ。現代とまさに地
続きだと思えるこの未来では、国が「アカガミ」というお見合いのよう
な制度を立ち上げて、状況を打開しようとしている。

 主人公のミツキは老人福祉施設に勤めているが、彼女もまた他者に興
味などなく、恋愛はもちろん、その感情すら理解することができない。
自殺をはかった彼女はログという女性に助けられ、彼女のすすめで「ア
カガミ」に志願する。教習所では映画やドラマなどを題材に恋愛やセッ
クス、結婚、家族というものを学び、選ばれた誰かと「番い(つがい)」
になるための準備をするのだ。

 相手に選ばれたのはサツキという男。彼らが家族になるまでのプロセ
スに心惹かれるのは普通ならばもう恥ずかしくて書かれないようなウブ
な恋や性への思いが描かれているところだ。その手探り感がなんだか愛
おしい。2人はやっと番いになり、ミツキは妊娠する。彼らは国家によ
って衣食住が保障され、子供ができたことでさらに特別な扱いを受ける
のだが…。

 デビュー作から生と性を描いてきた窪美澄は、この物語を通して現代
の若者に対する危機感、さらには、国が家族のカタチを決めつけてしま
う怖さを描いている。「アカガミ」というタイトルをつけたことで、ラ
ストはすでに暗示されていてそこには希望はないが、ミツキとサツキ、
2人の心の中に芽生えたものに僕はかすかな希望を感じた。(No.365)

◯窪美澄の他の本の書評はこちらです。
※一番上にはこのページが出ます。 

            ◯ ◯

2016.7.3 まだ梅雨なのに暑い!ムシ暑い!やめてくださいっっっ。
読書は宮部みゆき「希望荘」。暑いので進まない。

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【書評】北村薫「中野のお父さん」

◇ちょっと軽めの謎解きが楽しい安楽椅子探偵もの。

 円紫さんシリーズ、ベッキーさんシリーズなどの推理作家北村薫の新
しい名探偵シリーズ。探偵になるのは定年間近の高校の国語の先生、主
人公である出版社の編集者田川美希の父親だ。娘が会社で起こった出来
事や仄聞した事件、謎などを実家に持ち帰り話すと、博識の父親が見事
に解決しちゃうといういわゆるアームチェア・ディテクティブ(安楽椅
子探偵)ものだ。

 全8編が収録されていてひとつひとつはそれほど長くはない。個人的
には、新人賞候補になった小説の作者に美希が電話すると「投稿したの
は、一昨年」と言われる冒頭の作品「夢の風車」と雑誌に載った「宝く
じおばさん」の家に泥棒が入り空くじと知っていながら奪っていくとい
うラストの一編「数の魔術」が好き。どちらも謎が軽めの短編だ。これ
ぐらい軽いので全編まとめるのもいいと思うのだけれど…。

 北村薫という作家は大変な博識だと思う。特に文学についての知識は
素晴らしい。しかし、やや知の部分が勝ちすぎていてそれが鼻についち
ゃう作品も時々ある。いやいやそれがいいのよ、という人も文学好きに
は多いかもしれない。この本でいうなら宝井其角や幸田露伴、落語や歌
舞伎へと話が広がっていく「闇の吉原」はそういう一編だろう。なんだ
かんだといいながら僕もそういうのも楽しく読むのだけれど、同時にち
ょっとなぁ、と思ったりもするのだ。さて、皆さんはどうですか?
(No.363)

◯北村薫のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページが出ます。 

            ◯ ◯

2016.6.15 舛添氏、辞職するらしい。ちゃんと百条委員会開いて真相
究明を図って欲しい。読書は盛田隆二「父よ、ロング・グッドバイ」。

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【書評】片岡義男「コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ」

◇彼の小説はすべて自伝で、すべて自伝ではない。
コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。コーヒーにドーナツ盤、黒いニットのタイ。
片岡 義男

光文社 2016-02-18
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 片岡義男の小説を読むのって、何でこんなに気持ちがいいのだろう!
選びぬかれたムダのない言葉、しっかりと自立した登場人物たち、そし
て、そこに吹いている自由な風。この小説の紹介文には「自伝音楽小説」
帯には「自伝勤労小説」とある。1960─1973と副題が付いてい
て、それは著者の大学時代、会社員時代、なしくずし的にライターにな
った時代でもある。しかし、実は、そんなことはどうでもいいのだ。

 片岡義男の小説はいつだって「小説」だ。そこに登場する「僕」は、
(この短編集に限らず)いつだって片岡義男だし、いつだって他の誰か
だ。登場する男女が語る言葉は彼らの言葉ではなく、すべて片岡義男の
言葉かあるいは彼が彼らの言葉を「翻訳」したものだ。「自伝」という
フレーズに実は強く強く反応してしまったのだけど、読み終わったらハ
ハハハハッって笑ってしまった。彼の小説はすべて自伝で、すべて自伝
ではない。そういうことだ。

 ショートストーリーが44本。そこには必ず音楽が登場する。ポップ
ス、歌謡曲、演歌、ジャズなどなど。その曲のジャケットをカラーで紹
介するためだけの贅沢なオールカラー!印象的なストーリーがたくさん
あるが、鉛筆を街角で削るようになったいきさつを語る話、会話が曲の
コード進行だけに終始する話が素敵だ。また何ヵ月かしたら、僕はまた
本棚からこの小説を取り出して、好きなストーリーを読むだろう。そし
て、何ヵ月かしたら、また。(No.352)
※タイトルの最後には「。」が付くのですが、一番上では省略。2行に
 なっちゃうのがイヤだったので。すみません!

◯片岡義男のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページが出ます。 

            ◯ ◯

2016.3.16 しかし巨人もなぁ、何やってるんだか。士気を高めるとか
言ってるけどあんなことで士気が高まるのか??読書は「その女アレッ
クス」をゆっくり。

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【書評】角田光代「坂の途中の家」

◇被告と補充裁判員、読者をも巻き込む魂の混沌…。
坂の途中の家坂の途中の家
角田光代

朝日新聞出版 2016-01-07
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 早々ではあるけれど、間違いなくこれは今年のベスト候補だ。1人の
母親が8ヵ月になる長女を浴槽に落として、赤ちゃんが死んだ。故意な
のか事故なのか。この事件はマスコミでも報道され話題になっていた。
主人公の主婦里沙子は、この事件の補充裁判員になる。この小説は裁判
が始まって終わるまでの10日間の物語である。

 両親とうまくいってないことや一人娘の母親であることなど、被告人
の水穂と里沙子は境遇が似ていた。裁判が始まる。そこでは事件のこと
だけではなく、娘や夫との関係、さらには義母や実母との関係など事件
に到るまでの背景も当然のことだが語られる。法廷でそれを聞いている
里沙子はしだいに自分の「昔」や「今」に思いを馳せることになる。そ
していつの間にか、水穂に自分自身を投影していることに驚くのだ。自
分と娘との関係、夫や義母との関係。なぜかちくはぐで少しも思いが伝
わらない母と子、妻と夫。彼女は裁判員として参加していることでしだ
いしだいに追い詰めれられていく。それが水穂のことなのか自分のこと
だったのかさえも分からなくなってしまう。

 角田光代がすごいのは、読者をもこの混沌に巻き込んでしまうことだ。
これは水穂の話だったのか里沙子のことだったのか、読んでいて一瞬迷
ったり、自分自身の子育てや夫婦の関係などにも思いが強く及んでしま
うのだ。僕は男だからまだいいのかもしれない。子育て中の女性が読ん
だならこの感情移入は半端ではないだろう。恐ろしい…。さらに恐ろし
いのはすべての関係がそして裁判というものが言葉を通して成り立って
いるという恐ろしさを突きつけられることだ。ラスト、里沙子は夢から
覚めたように現実に戻る。しかし、その現実の中ではまた…。
(No.350)

◯角田光代のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページが出ます。
◯補充裁判員の説明はこちらで。 

            ◯ ◯

2016.2.15 花粉、寒暖差、乾燥、強風が春先の4Kだってテレビで言
ってた。なるほど。昨日からの寒暖差すごい!読書は村田沙耶香「消滅
世界」。これもまたまた大変な一冊。

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【書評】窪美澄「さよなら、ニルヴァーナ」

◇自分の中でうまく消化できなかった「少年A」の物語。
さよなら、ニルヴァーナさよなら、ニルヴァーナ
窪 美澄

文藝春秋 2015-05-28
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 窪美澄は大好きなのだけど、この小説にはうまく入っていくことがで
きなかった。1997年に起こった神戸の連続児童殺傷事件がモチーフに
なった物語だ。事件がそのまま扱われているわけではない。しかし、こ
れはやはり「少年A」の物語で、舞台も神戸。犯行現場もそのままだ。
どうもそのあたりの諸々を、自分の中でうまく消化することができない
のだ。

 4人の語り手が登場する。小説家志望の女性今日子、ネット情報から
少年Aに憧れる少女莢(さや)、少年Aに娘を殺された母親なっちゃん、
そして、少年Aであった青年倫太郎。話が進むに連れて、この4人はど
こかで繋がり、そこに新たな物語が生まれる。中盤過ぎでなっちゃんが
「(娘の)光があの子に殺されたのは、ほんとうに不幸なことだっんだ
ろうか。」と考えるところでは戦慄した。作者はなっちゃんにしっかり
と寄り添っている。しかし、寄り添いすぎてこんな言葉まで母親に吐か
せているのはちょっと恐ろしい。

 この物語で僕が共感できるのは小説家志望の今日子だけだ。小説教室
に通いながら講師の男と関係を持ち、文学賞では最終選考に残り、その
うち教室の古株になって「女王」なんて呼ばれている女。東京の暮らし
に見切りをつけ故郷に帰ったならば、母と妹夫婦とのどうしようもない
日々が待ち受けていて、絶望しながらも小説家への未練を断ち切れない
女。故郷の町の近くに青年になった少年Aが暮らしてるらしいと知って
しまった女。最終章である「終曲」は彼女の語りで書かれている。これ
が何とも凄まじい。

 ここで語られるのは今日子の述懐であると共に、小説家窪美澄の心の
叫びでもある。彼女がこの物語を苦しみながらも書き続け、もっともっ
と「人の中身が見たい」と思い、さらに書き続けていこうと決意してい
ること。「自分が見た地獄など、地獄の入口ですらない」「ならば、も
っと地獄に行こう。もっと深くて、もっと暗い、地獄に下りていこう」
と語る今日子。ううむ。とにもかくにも、これからも僕は窪美澄の物語
を読み続けていくだろう。数年経って読んでみたら「さよなら、ニルヴ
ァーナ」への自分の思いは変わっているのだろうか。(No.333)

◯窪美澄のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページがでます。 

            ◯ ◯

2015.7.27 梅雨が明けた途端にやたらと暑くなっちゃったじゃないか。
ドラマ「民王」がおもしろい。読書は朝井リョウの「武道館」。

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【書評】川上弘美「水声」

◇家族とは?という問いと人ひとりの孤独の深さ。
水声水声
川上 弘美

文藝春秋 2014-09-30
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 様々な思いが立ち上ってくる不思議な小説だ。主人公である都がマ
マが死んでから10年間無人だった家に弟の陵と戻って来るところか
ら物語は始まる。彼女たちはそこに20年近く住むことになり、物語
は長いスタンスの中で語られる。さらに、夢の中に出てくるママの話、
実際の回想も交えて、物語は過去の時間にも飛ぶ。

 ママとパパとの関係、都と陵との関係…家族の話ではあるけれど、
そこにあるのは、とても複雑な人と人との繋がりだ。いや、複雑なの
ではなくそれはある意味「シンプルな」と言った方がいいのかもしれ
ない。家族というだけで存在するある種の思い、それは本物なのか?
一人の人間と人間として向き合った時、そこにはどんな思いがあるの
か?家族っていったい何だ?血のつながりって?そんなことを思うと
同時に、人ひとりの孤独の深さを強く感じた。

 この物語の背景として描かれるのは昭和天皇の崩御であったり地下
鉄サリン事件であったり、先の大震災だったりする。そういうリアル
な時間を生きながら、都と陵は自らの思いと向き合ってきた。その思
いと彼女たちが過ごしてきた時間を物語の中で同時に感じることがで
きるのが「水声」という小説のスゴさのような気がする。(No.329)

◯川上弘美のその他の本のレビューはこちらです。
※一番上にはこのページがでます。 

            ◯ ◯

2015.6.15 いやいやいや、いろいろあるなぁ。まいったなぁ。う
〜む…。読書は椎名誠の「孫物語」で気分転換。

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【書評】北村薫「太宰治の辞書」

◇シリーズのおもしろさを再確認できる17年ぶりの新作。
太宰治の辞書太宰治の辞書
北村 薫

新潮社 2015-03-31
売り上げランキング : 1968

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 いわゆる《私》シリーズ(円紫さんシリーズともいう)の最新作。実
に17年ぶりの新作だ。一作目で大学生だった《私》はすでに結婚し、
小さな出版社の編集者になっている。なんと中学生の息子までいる。こ
れだけで今昔の感がある。このシリーズ今までは東京創元社から出てい
たのだが、今回からは新潮社。《私》が新潮社に向かうところから物語
が始まるのがいかにも北村薫らしい。

 3つの物語が収められていて、各々がゆるやかにつながっている。読
み始めるとこのシリーズ独特の語り口を思い出してとても懐かしい。最
初の「花火」は芥川龍之介の「舞踏会」とその元になったピエール・ロ
チの本の話。これはちょっと知が勝ちすぎている感じがした。特に後半
は論評みたいになってるのがなじめない。次の「女生徒」はいうまでも
なく太宰の小説がテーマ。懐かしい友人の正ちゃんは国語の先生になっ
て登場する。小説に出てくる「ロココ料理」の話から「女生徒」の題材
となった「有明淑の日記」への考察。その対比から太宰論へと進み一気
におもしろくなってくる。

 そして、表題作。3作の中ではなんといってもこれが一番だ。ここで
ようやく落語家の円紫さんが登場。前の2つの話を報告するというカタ
チで物語が進み、有名な「生れて、すみません」のこと、太宰が使って
いた辞書の話へと広がっていく。このあたりの巧みなこと。少しミステ
リーがかった展開と知的好奇心をくすぐる内容。これこそこのシリーズ
の真骨頂だ。読み進めるうちに《私》シリーズのおもしろさを再確認で
きた。やっぱりいいよなぁ、これ。未読の人は「空飛ぶ馬」からぜひど
うぞ!(No.327)

◯北村薫のその他の本の書評はこちらから。
※一番上にはこのページがでます。 

◯《私》シリーズ創元推理文庫版既刊5冊はこちらから。
空飛ぶ馬
北村 薫
4488413013
夜の蝉
北村 薫
4488413021
秋の花
北村 薫
448841303X
六の宮の姫君
北村 薫
4488413048
朝霧
北村 薫
4488413056

            ◯ ◯

2015.5.31 やっぱり日本は火山列島で地震列島だ。これから本当にな
にが起こるかわからない。そんな国に原発なんているのか。読書は澤田
瞳子「若冲」。

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【書評】小池真理子「千日のマリア」

◇様々な思いを胸に振り返る過去。そのせつなさとやるせなさ。
千日のマリア千日のマリア
小池 真理子

講談社 2015-02-18
売り上げランキング : 8909

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 小池真理子は巧い。豊かで芳醇な味わいがあるその文章は、読む者を
自然と彼女の物語世界に引きこんでいく。そして、その物語は、人間の
魂をまるごと描くことで、読む者の心を強く捉えて離さない。彼女の小
説を読んでる時間、それはまさに至福の時だ。

 「千日のマリア」は8編からなる短篇集である。そこで描かれる多彩
な主人公たち!義理の叔父である映画監督に強く惹かれる大学院生、母
と大家の息子の逢瀬を目撃した少女、父の愛人であるモデルに子供の頃
からあこがれ続ける男、愛した男が忘れられず心の病を抱え廃墟に住む
女。そして、片腕切断の原因となった義母へ強い愛憎を抱く男。これが
表題作の主人公でこの話が一番心に残る。彼の行動はせつなく哀しい。
そんな彼を黙って受け入れる義母の悲しみはさらにさらに深い。「千日
のマリア」とは本当によくつけた、見事なタイトルだ。

 まったく独立した8つの物語だが、そのすべてに「時の流れ」を強く
感じる。主人公たちは過ぎ去った時を振り返り、流れてきた時間を自ら
受け止める。悲しみ、怒り、寂しさ、懐かしさ、後悔とわずかな希望…
様々な思いを胸に。人が生きていく長い時間を思うと、それはなんとも
せつなく、なんともやるせない。それでも人間は自らの人生を生き続け
るのだ。(No.321)

◯小池真理子のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページがでます。 

            ◯ ◯

2015.4.4 この週末から来週にかけてずっと曇りの予報。なんだかいや
だなぁ。体調崩してる人も多そう。読書は上橋菜穂子「鹿の王」下巻。

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【書評】角田光代「笹の舟で海をわたる」

◇疎開派世代の魂の在りようを描き、強く心を揺さぶる傑作。
笹の舟で海をわたる笹の舟で海をわたる
角田 光代

毎日新聞社 2014-09-12
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 「本の雑誌」昨年度ベストテンのNo.1。あの「本の雑誌」が角田光
代のようなビッグネームを1位にしたこと、大絶賛であったことに驚い
て読んでみた。ま、最近の小説は全部読んでるけど。それにしてもこれ
は…。角田光代、恐ろしい。50歳前なのによくこんなテーマで書ける
ものだ。ま、それが小説家というものなのだろうけれど。

 主人公は昭和8年生まれの春日左織という女性。この小説には戦争中
に疎開を経験し、終戦時は小6だった彼女の67歳までの人生が描かれ
ている。初めは一人の女性の一生という感じで読んでいたのだが、読み
進めていくうちにそれだけではない、ということに気づいた。これは僕
の親の年代にも近い、疎開派世代の女性たちの魂の在りようを描いた物
語なのだ。そこには普遍性があり、心にグッと迫ってくるものがある。

 左織は自らの運命に抗うことなく生きてきた。その生き方は自分の考
えなどまるでないようにさえ思える。角田光代は疎開先で一緒だった風
美子という女性を登場させることで、左織との対比を鮮やかに描きだし
ている。料理研究家で自分の思い通りに生きている風美子には、戦後の
新しい風が吹いている。彼女はそのうち義理の妹になるのだが、左織は
風美子に対して畏怖のような感情を抱き続け、家族を取られてしまうの
ではないかとさえ思ってしまう。

 後半、時代が動いていく。不仲の娘はニューヨークに去り、夫は病に
倒れる。昭和から平成へと年号が変わり、バブルの時代も見事にはじけ
る。そんな中で左織はただただ呆然と生きているように見える。なぜか
その姿に僕は強く共感を覚えた。こういう女性たちが確かにいた、とい
う思い。そんな左織が下す最後の決断に心が少しだけ軽くなった。角田
光代、これは必読の傑作小説!(No.317)

◯角田光代のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページがでます。

            ◯ ◯

2015.2.15 なんだかいろいろと停滞している気分。寒いしなあ…。
読書は岩崎俊一「幸福を見つめるコピー」。

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【書評】窪美澄「水やりはいつも深夜だけど」

◇強い共感と明日への勇気を与えてくれる家族の物語。
水やりはいつも深夜だけど水やりはいつも深夜だけど
窪 美澄

KADOKAWA/角川書店 2014-11-14
売り上げランキング : 2657

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 同じ幼稚園に子どもを通わせている5つの家族の物語。窪美澄の小説
は直接それを描いていなくても、根底にはいつも家や家族がある。夫と
妻、親と子、さらには、祖父や祖母の存在。彼女が描く家族、それは、
女性の立場から一方的に描かれたものではない。この短編集でも5つの
うち2つが「夫」の一人称で書かれているのだが、彼らの生き方、社会
人としてのありよう、妻との関係、交わされる会話、どれもが間違いな
く「男」であり「夫」なのだ。

 窪美澄は常に家をみつめ、家族を考え、夫と妻、親と子の関係に思い
を馳せている。だからこそ、その登場人物も物語もリアルで、読む側は
強く共感するのだ。彼女の読者は女性が多いのだろうけれど、一人でも
多くの男性に読んでもらいたいと僕は切に思う。

 理想的な家族、そんなものはどこにもないだろう。ここに出てくる夫
婦もトラウマや不安や情けなさやいろいろなものを抱えていて、関係も
ギクシャクしている。そんな中でも彼らは、何とか希望を見出して家族
として生きていこうとしている。同じだ、私たちと同じだ、この家族、
この妻、この夫、この子は同じだ、そう思うことで僕らは救われ、勇気
をもらえる。
 
 窪美澄はやっぱりいい。今年のマイベストに間違いなく入る1冊。最
後の1編「かそけきサンカヨウ」、女子高校生となさぬ仲の母、実の母
の話。そのストーリーとサンカヨウの透明な花の美しさが掉尾を飾るの
にふさわしい。(No.310)

◯この本の特設ページはこちら
◯窪美澄のその他の本書評はこちらから。
※一番上にはこのページがでます。
◯サンカヨウの花、ってこんなの

            ◯ ◯

2014.12.17 校正が‥。ああせいこうせいで、もう何だか‥。やるこ
とばかりが増えている。読書は宮部みゆき「荒神」。

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