【書評】上橋菜穂子「鹿の王」        

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【書評】上橋菜穂子「鹿の王」

◇2人の男を通して描かれる、力強い生命の物語。
鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐
上橋 菜穂子
4041018889
鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐
上橋 菜穂子
4041018897

 今年の本屋大賞受賞作。作者の志の高さを強く感じる物語だ。「鹿の
王」は単なるファンタジーではなく、医療ミステリーであり、冒険小説
であり、人間小説でもある。

 舞台は大帝国・東乎瑠(ツオル)に征服されたアカファ領。そこには
元々の住民、東乎瑠からの移住民、さらには「火馬の民」などの辺境の
民がいる。それぞれの思惑が絡み合い、それはまるでこの世界の紛争地
の縮図のようにも思える。そして、主人公の2人。1人は「欠け角のヴ
ァン」。妻と子を亡くし、絶望から死に場所を求めていた戦士団「独角」
の頭。もう1人は高度なオタワル医療を受け継ぐ医術師ホッサル。犬の
群れの襲撃から起こった病でなぜか生き残ったヴァンがもう1人の生き
残り幼子ユナと逃亡の旅に出る。ここから物語が動き出す。彼らを待っ
ているのは…黒狼熱、犬の王、沼地の民…。そして、2人を追うサエと
いう後追い狩人の娘の存在。

 犬に噛まれたことでその身体に異変をきたしたヴァン、病の治療法を
なんとか見つけ出そうとするホッサル。2人の存在とその在りようはこ
の物語の中でも際立っている。ウイルスの話が人間世界とシンクロし、
さらに深遠な物語世界を造り出す。圧巻なのは下巻の半ば辺りから。病
のこと、命のことを主人公たちが語る長い場面、そして、驚きの謎解き
とヴァンの決断!

 絶望の縁にいて、もう生きていたくないと思っていた男が最後にとっ
たこの行動は、読むものの心を強く打つ。それはまさに、作者が放つ生
命に対する力強いメッセージだ。「生命」そのものを描いて、これは忘
れることができない物語になった。(No.322)

◯上橋菜穂子のその他の本の書評はこちらから。
※一番上にはこのページがでます。 

            ◯ ◯

2015.4.17 ううむ、やっと春らしい春になって来たのかな。いろいろ
とやることがあるような、ないような。読書は絲山秋子「離陸」。

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