【書評】角田光代「坂の途中の家」        

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【書評】角田光代「坂の途中の家」

◇被告と補充裁判員、読者をも巻き込む魂の混沌…。
坂の途中の家坂の途中の家
角田光代

朝日新聞出版 2016-01-07
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 早々ではあるけれど、間違いなくこれは今年のベスト候補だ。1人の
母親が8ヵ月になる長女を浴槽に落として、赤ちゃんが死んだ。故意な
のか事故なのか。この事件はマスコミでも報道され話題になっていた。
主人公の主婦里沙子は、この事件の補充裁判員になる。この小説は裁判
が始まって終わるまでの10日間の物語である。

 両親とうまくいってないことや一人娘の母親であることなど、被告人
の水穂と里沙子は境遇が似ていた。裁判が始まる。そこでは事件のこと
だけではなく、娘や夫との関係、さらには義母や実母との関係など事件
に到るまでの背景も当然のことだが語られる。法廷でそれを聞いている
里沙子はしだいに自分の「昔」や「今」に思いを馳せることになる。そ
していつの間にか、水穂に自分自身を投影していることに驚くのだ。自
分と娘との関係、夫や義母との関係。なぜかちくはぐで少しも思いが伝
わらない母と子、妻と夫。彼女は裁判員として参加していることでしだ
いしだいに追い詰めれられていく。それが水穂のことなのか自分のこと
だったのかさえも分からなくなってしまう。

 角田光代がすごいのは、読者をもこの混沌に巻き込んでしまうことだ。
これは水穂の話だったのか里沙子のことだったのか、読んでいて一瞬迷
ったり、自分自身の子育てや夫婦の関係などにも思いが強く及んでしま
うのだ。僕は男だからまだいいのかもしれない。子育て中の女性が読ん
だならこの感情移入は半端ではないだろう。恐ろしい…。さらに恐ろし
いのはすべての関係がそして裁判というものが言葉を通して成り立って
いるという恐ろしさを突きつけられることだ。ラスト、里沙子は夢から
覚めたように現実に戻る。しかし、その現実の中ではまた…。
(No.350)

◯角田光代のその他の本のレビューはこちらから。
※一番上にはこのページが出ます。
◯補充裁判員の説明はこちらで。 

            ◯ ◯

2016.2.15 花粉、寒暖差、乾燥、強風が春先の4Kだってテレビで言
ってた。なるほど。昨日からの寒暖差すごい!読書は村田沙耶香「消滅
世界」。これもまたまた大変な一冊。

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